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不動産登記

休眠担保権の抹消

2020.9.2


 

不動産の登記記録に、大正や昭和初期に設定された古い抵当権が残っていることがあります。休眠担保権と呼ばれるもので、実体上は消滅していても抹消登記がなされずに放置されていたため、登記記録に残ってしまっているものです。

このような抵当権がついていると、不動産を売却したり融資を受けることが困難になってしまいます。

 

先日、この休眠担保権の抹消の相談を受けました。依頼人の方が相続した土地に自宅を新築しようとしたところ、登記簿にまったく覚えのない古い抵当権がついていて、融資も受けられず困っている、というお話でした。

 

昭和初期に設定されているもので、記録されている抵当権者の名前にも心当たりがありません。年代から考えて、おそらく抵当権者にも数次の相続が発生していると考えられます。

 

まず、登記記録にある抵当権者の所在や相続人が誰かがわかっている場合は、原則どおり、抵当権者(の相続人)と抵当権設定者(不動産の所有者)とが共同で抹消登記を申請します。

共同で、ということは、相続人の方々の協力が必要ということです。相続人の協力が得られない場合は、時効を援用して裁判で抹消登記を求めるなど別の方法を検討しないといけません。

 

問題はそもそも抵当権者の所在が不明な場合です。登記記録が古ければ古いほど、抵当権者をさがすのが困難になります。

 

このような場合には「供託」という方法があります。

 

債権の元本や利息、損害金の全額を法務局などにある供託所に供託することで、弁済と同じ効果を得るものです。供託したことの証明(供託書正本)を添付して、不動産所有者が単独で抹消登記を申請できます。

 

この供託による抵当権抹消は簡単な方法のように思えますが、要件があります。

(不動産登記法第70条第3項、不動産登記令別表26添ニ)

①弁済期から20年が経過している

②被担保債権、利息、損害金全額を供託

③登記義務者の所在が知れないこと

 

①については、閉鎖謄本など弁済期を証明する書面、②については供託書正本を添付すれば足りますが、意外に難しいのが③の「義務者(抵当権者)が行方不明であることを証明する」方法です。

 

先例(昭63.7.1-3456号、3499号)では、

ア 登記義務者が登記簿上の住所に居住していないことを市区町村長が証明した書面

イ 登記義務者の登記簿上の住所に宛てた被担保債権の受領催告書が不到達であったことを証する書面が挙げられています。

 

不在籍・不在住証明書がアにあたると思われましたが、管轄の法務局に問い合わせたところ、「管轄にもよると思いますが・・・うちでは不在住証明では不可です(不在籍証明は不要)」との回答でした。

 

アで求められている書面は、「その住所地に居住していないこと」を証明するものだが、不在住証明書は単にそこに住民登録がされていないというだけで、居住していないことの証明にはならない・・・ということのようです。

 

それではどういう書類がアに該当するのかということですが、「居住していないことの証明は、なかなかよほど特殊な案件の時しか役所は出してくれないと思いますよ」という回答で、イの方法を勧められました。

 

これは登記記録上の債権者の住所に宛てて受領催告書を配達証明郵便で送り、不到達で戻ってきたものを所在不明であることの証明とするもので、よく使われている方法のようです。

 

今回は抵当権者に相続人がいらっしゃることがわかったので、「行方不明であること」にはならず供託は行いませんでしたが、今後供託をする機会も出てくるかもしれません。

 

今回のケースはまず相続人の方々を特定して事情を説明し、相続登記(抵当権の移転登記)をした上で、了解を得て抹消登記を申請しました。

 

また今回の相続登記は旧民法の家督相続が適用されるものだったので(→リンク「旧民法による相続」)、相続人の方々はまだ現実的な人数でしたが、多い場合は何十人もの相続人と連絡をとらなくてはならないこともあります。中には連絡をとるのが難しい方もいるでしょう。連絡がとれてもご協力いただけるかどうかわかりません。

 

今回は幸い相続人の皆さまにご協力いただき、無事に共同申請で抹消することができましたが、一人でも協力が得られなければ裁判という方法になっていた可能性もあります。

 

100年近く前の、債権額が100円や500円といった抵当権でも、権利として登記されている以上、ぽんと誰かに100円を渡して勝手に消してしまうことはできません。

 

適法に抹消するには様々な手続きが必要になりますので、このような古い担保権でお困りの方は専門家にご相談いただければと思います。